モビルスーツは今までのどのカテゴリにも当てはまらない新兵器として一年戦争開戦前に開発されたのは皆さんご存知の事と思います。
ジオン公国はその万能性を用いて一年戦争緒戦を圧倒しました。
しかし 一方では、その万能性が故、維持管理・メンテナンスにおいても今までに無い技術が求められる事になります。
その項目は色々なカテゴリに及び、またその中でも更に細分化され、それぞれに高い専門性が必要とされました。
モビルスーツを陰で支えるメンテナンス。
連邦とジオンとでは決定的な違いがあります。
戦争の行方を左右したと言っても過言ではない両軍のメンテナンス事情とは、どの様な物なのでしょうか?
モビルスーツのメンテナンス項目
例えば現代の車のメンテナンス項目を挙げると、
- 動力系
- 駆動系
- 電気系
に大別されると思います。
これは、車の用途が「走る」事に特化されているからです。
- 走る・曲がる・止まる
この基本性能を維持させる為に必要な項目です。
しかし、モビルスーツに求められる用途は実に多岐に渡ります。
- 格闘・戦闘・白兵戦、拠点防衛・砲台、建設重機、etc…
この用途に答える為、モビルスーツは万能性を意識して擬人化されている訳ですが、およそ40tもあり高さも20m程ある人型機動兵器・モビルスーツを構成する大まかな項目として、
- 骨格
- 関節
- 核融合炉
- 廃熱・冷却機構
- スラスター(バーニア)
- 姿勢制御・補助用オペレーションシステム
- レーダー等の観測機器
- 武器・サブフライトシステム等との連携機構
- 脚部アブソーバ
まだまだ沢山ありますが、色々なカテゴリに加え放射能に関係する物まであり、とても小規模な施設や知識、スキルではメンテナンスできる代物では無いと言うことは容易に想像つきます。
素人集団ホワイトベース隊はメンテナンスできるのか?
みなさんご存知、ホワイトベース隊。
彼らが前線でモビルスーツを運用する状況をちょっと考えてみましょう。
先ず、ホワイトベース隊は処女航海でサイド7に入港した時、シャアの襲撃に遭い不意を突かれてしまった影響で正規のクルーは殆ど戦死してしまいました。
もちろん整備兵も例外ではなく、その穴は生き残ったオムル・ハングや、ジョブ・ジョンを中心とした若いワーカー達で補う事になります。
実質ホワイトベース隊の整備を司っていました。
雑務からモビルスーツパイロットまでこなす正規クルーです。
この状態のホワイトベースで、最前線で躍進するガンダム等のRXシリーズの運用を助け、上記した項目によく対処できたな。
……と思いませんか?
しかもジョブ・ジョンは元々、予備パイロットとして配属されていたので、正規のメカニックでもありません。
しかし、最新鋭機を搭載したホワイトベースは終戦まで戦い抜きました。
そりゃ、伝説の部隊といわれる意味も分かります。
しかしこれは、連邦のモビルスーツがメンテナンスの簡易性も念頭に置き開発されている事に優れた点が隠されており、それの恩恵を受けた事に依ります。
ジオンと連邦のモビルスーツ設計思想の差とは?
ジオン公国と地球連邦のモビルスーツは、駆動システムがそれぞれ根本的に違います。
流体パルスシステム
ジオン公国が採用した駆動システムである「流体パルスシステム」は、コロニー建設用の重機等をモデルとして開発されたものです。
その為、壊れた部分を修理・取り替えをして再稼動できるようにメンテナンス性を重視して設計されています。
一見、後々のメンテナンスを考えて設計されている様に見えます。
しかし、それは人と部品と道具と時間とが揃っていればの話であり、戦時中の苦しい状況下で膨大な部品点数からなるモビルスーツを、部隊が孤立する前線で修理・管理・補修することは逆に極めて困難な事になってしまいました。
フィールドモーターシステム
一方、連邦が採用した「フィールドモーターシステム」は、各部がユニット化されていて、壊れた部分があればユニットごと丸ごと取り替える仕組みになっています。
例えば、肩関節部分のフィールドモーターが些細な故障で動かなくなったとしても、その些細な故障箇所を探して修理するのではありません。
肩関節部分のフィールドモーターユニットを丸ごと交換するのです。
一見、些細な故障で高価なフィールドモーター一式を丸ごと交換するのは不経済に見えるかもしれません。
しかし、ミノフスキー技術が集約された部位の些細な故障を、戦時中に、しかも過酷な環境の前線で細かくチェックする事自体が非現実的です。
そこに多くの人手と材料の調達によるタイムロスと機体の拘束を考えれば、丸ごと取り替えた方が早く済みます。
「ユニット丸ごと取り換える。」
これは駆動システムをはじめとするその他、全ての構成部材がその概念で設計されていて、つまりはモビルスーツの稼働率に主眼が置かれているのです。
経済的視点ではもったいない事かもしれませんが、戦時中に機体が出撃できないのなら元も子もない話です。
とにかくメンテナンスにかける時間を少なくし機体を一秒でも早く運用可能状態にする事。
時間をお金に換算すれば、かなりの効果を得る事が出来ます。
また、それらユニットは工場で製造されるので、精度の高さと品質が安定する事、加えて生産効率もとても高くなります。
流体パルスシステム と フィールドモーターシステムの比較
上記した事を総じてまとめると、
- 連邦のモビルスーツは現場での負担を軽減する。
- ジオンのモビルスーツは、メンテナンスが容易である分、逆に現場に負担が掛かってしまう。
と言う意味になります。
この事から、先に述べたホワイトベース隊は素人同然でもモビルスーツを整備する事が可能でした。
もちろんハードワークが必要な場合は途中で立ち寄ったルナ2や、地球降下後 マチルダさんの補給時に必要な機材・道具と人材の調達。
また、ベルファスト基地やジャブロー基地での高いレベルでのオーバーホールやメンテナンスを行う事により、ガンダム運用からおよそ3ヶ月で戦争が集結する間に様々な戦果を残すことが出来たのです。
ジオンの「統合整備計画」とは?
ジオン公国は南極条約を契機としてモビルスーツの生産性を再考して「統合整備計画」を発動させました。
これは、先に述べた連邦のモビルスーツ設計の概念に似ています。
モビルスーツのパーツを可能な限りユニット化する事と、部品を統一化して部品点数を減らす目的が含まれています。
しかしながら、既存のザクシリーズ等は量産され主力機となっていた為、それらの設計思想と統合整備計画とは根本的に思想・概念が異なるので現場での負担軽減を連邦と同じレベルに高める事は不可能です。
従って、ジオンは先に記した項目
- 骨格
- 関節
- 核融合炉
- 廃熱・冷却機構
- スラスター(バーニア)
- 姿勢制御・補助用オペレーションシステム
- レーダー等の観測機器
- 武器・サブフライトシステム等との連携機構
- 脚部アブソーバ
これらに部隊単位で対応する必要に迫られた事になります。
ハード面・ソフト面 両面をサポートする訳ですから、ある程度の役割分担された「整備班」が編成されていなければ、放置する項目も多かった事でしょう。
そうなってしまえば、元々の性能を発揮できないまま戦線に投入されたり、もしくは整備が困難で痛んだザクを「部品取り」としてバラして、それを比較的健全なザクにユニットパーツとして当て込む。
いわゆる「2個1(にこいち)」です。
Zガンダムで登場するガンダムMkⅡは、奪取した2機の一方をバラして部品取りとして使われたとの設定になっています。
それと同じ考え方です。
ティターンズから2機を奪取後、白に塗り替えられました。
整備には手が回らなかったでしょうから、裏ではそんな事が行われていたかもしれませんね。
まとめ・考察
モビルスーツの整備・メンテナンスについての両軍の差をまとめてみました。
これを現代の車のテールランプを例に置き換えてみると、「ランプが点灯しない」と言う症状が出た場合、
- ジオンは、球、電子基盤、配線… 考えられるこれらの要素を一つ一つチェックして故障箇所を特定してから修理を行う。
- 連邦は、単純にテールランプユニットを取り外して丸ごと交換する。
この違いと手軽さでモビルスーツ運用に大きな差が出てしまったのです。
もし、ジオンがフィールドモーターシステムを採用し、連邦が流体パルスシステムを採用していれば、ホワイトベース隊の存在はおろか、地球連邦は速攻で敗戦していたかもしれません。
戦うに当たり、メンテナンスは非常に大きな要素であるのです。
地球連邦のメンテナンスは簡単に言うと
- 消耗部品の交換
- 噴射剤(プロペラント)の補充・補填
- ビーム兵器のエネルギーPACのチャージ
- スラスター推力の調整
- 姿勢制御などのプログラムソフト面のサポート
この程度で、これ以上の整備は危険だし内容が分からないので、
「えーい。分からんからまとめて取り替えてしまえ!」
と言う事です。
と思う所ですが、交換されたユニットは後方の拠点や工場へ送られ、リペア可能なら調整して再利用されます。
しかも、連邦のモビルスーツはジムをベースとした機体でラインナップを構成しています。
すなわち、リペアしたユニットを他の機体やバリエーション機へ流用する事が可能なのです。
これは運用管理上、大きなメリットとなります。
これを考えれば、不経済どころかとても経済的で前線から後方まで満遍なく役割を分担させつつも、無駄なくユニットを使い回す事が出来ます。
各ユニットのリサイクル&リユース
役割分担もバッチリだナ
……と言うような話でないと、ホワイトベース隊の活躍と成り立ちは説明できません。
もし、それが否定されたとして、あと考えられるのは、
- RXシリーズが非常に頑丈であった。
という事でしょうか。
モビルスーツは想定を逸する活動を行うので想定外の荷重を考慮し、あらゆるパーツに強度上の高い安全率が掛けられていた。
と言う設定にするかです。
しかし、安全率が高くなれば重量と体積も増します。
まあ、何とかその設定で納めたとしても、なんだかんだで形あるものは必ず朽ち果てます。
リアルロボット系の金字塔と言われる「ガンダム」
できれば、前者であることを祈り、この記事を締めくくりたいと思います。
以上、余談でしたー。
マチルダ中尉も、MSの運用データと共に破損した交換部品を積んで持ち帰っていたと考えるのが自然でしょうか。
また、開発段階におけるこれらの部品で「ガンダムの要求性能に相応しくないが、ただ捨てるのももったいない」ものを数十機分かき集めたのが陸戦型ガンダムという事ですかね。
これなら、「修理はしたけどホワイトベースには行き渡らなかった分」を使って陸戦型ガンダムの生産台数問題が少しは解決に向かわないかなぁ〜というのは考えが飛躍しすぎですかねぇ…
名無しの一般兵さん
コメントありがとうございます。
飛躍した考えではないと思います。
ただ、おっしゃられている様に「少しは」と言う域は出ないと考えます。
損傷などで交換頻度が高い部品とそうでない部品があると思いますので、「陸戦型が数十機できたけど何か色んな部品が余っちゃったねー。」
部品の偏りがあったのだと思いますので、やはり「少しは」がついてしまうと思います。
現用のF/A-18から採用されているシステムで機体の運用時の操作、負荷、運転時間をモニターする機能があります。つまり、機体の方で「この部品はそろそろ点検してくださいね。」と指摘するシステムです。このシステムのおかげで湾岸戦争において艦上機の上、戦闘機と攻撃機の両用という過酷な使われ方をされたにもかかわらず、稼働率85%と言う驚異的(奇跡に近い)な稼働率を記録しています。
V作戦においては特に運用データが重要なわけでおそらく初期段階では戦術データよりも機体モニタリングデータの方が優先されていたと思います。機体モニターは部品単位で劣化予測が可能なレベルというなら、コアファイターのコンピュータスペックはこの為のものと考えることも出来ます。当然、WBには在来間では考えられないような高精度の計測器も積まれているはずで、その計測器のデータを機体のコンピュータにフィードバックしてやれば「学習コンピュータ」がさらに高精度の耐用期間を割り出すことが出来るということになります。そのための「コアブロックシステム」ではないかと自分は考えています。
ガンダム親父さん
コメントありがとうございます。
かなり秀逸なコメントだと思いました。
開戦当時のコアファイターは内包型であり、生存性を高めた構造になっています。
これは、パイロットのみでは無くデータ回収に主眼が置かれていた為で、確かに長期運用や過負荷運用に於いて耐用期間を割り出すには一定以上の稼働が必要で大変貴重なデータと言えます。
それを破壊されると、後の兵器体系に大きな影響がでる。
無茶苦茶な言い方をすれば、ある意味パイロットの存命と同等の価値があるものかも知れませんね。
連邦モビルスーツはマンパワーより、システムや仕組みによってかなり助けられてますね。
よく出来た設定と思います。
はじめまして。
ガンダムの部品(に限らず連邦の部品)は、現地修理もある程度は行われてたんじゃないかなと思います。初期のホワイトべースでは厳しいと思いますが、ガンダムが故障して帰ってきたらとりあえずユニットごと取り替えちゃって、後で時間があるときに故障したユニットをいじるという感じです。これならパーツの輸送量も減らせるかなと。
天野星屑さん
コメントありがとうございます。
部隊編成された中での現地修理はあり得ると思います。
量産化されたジムなどを部隊で複数所有する事になるでしょうから、ホワイトベースと比べ格段に補修環境は整っていたと考えて良いと思います。
あとは、ジムの稼働率を上げる事に対し、自前で修理するのと、輸送量を増やしてでも後方に送って専門に修理してもらうのと、どちらが効率よく目的を達成できるかの問題ですかね。